日本創傷・オストミー・失禁管理学会は、排泄ケアを基軸とし、褥瘡管理、ストーマケア、失禁ケアにおいて、その技術の開発・普及に尽力してまいりました。特に排尿ケアにおいては、平成28年度の排尿自立指導料の保険収載、令和2年度の排尿自立支援加算・ 外来排尿自立指導料への範囲拡大は記憶に新しいものといえます。また、平成30年には 尿や便( あるいは両方)が皮膚に接触することにより生じるIAD(Incontinence- Associated Dermatitis)に関するベストプラクティスを出版し、排泄に関連するスキンケアの新しいスタンダードを臨床に浸透させる取り組みを進めてきました。
一方で、臨床では排便機能障害のひとつである便秘で苦痛を抱えている患者と、その治療やケアに難渋する医療従事者の姿があります。便秘は加齢とともにその有症者率が増加し、生命予後やQOLに大きく影響することが報告されています。超高齢社会を迎えてい る日本において、特に認知症等を有する高齢者は、便秘による症状を伝えることが難しく、診断やアセスメントができないために、適切な治療やケアが十分提供できていない現状が あります。便秘の診断には、まず腹部X線や注腸X線検査、内視鏡検査等が実施されますが、これらは基本的には器質的疾患の除外のみに活用され、便秘の病態や便貯留状態の評価は 難しいといえます。特に病院・在宅のベッドサイドでは便の貯留状態などの評価結果を即 座に判断し、迅速な処置やケアを行うポイントオブケアが必要とされています。
近年では超音波画像診断装置(エコー)による大腸便貯留の観察が注目されてきました。特に、看護理工学会では、エコーを用いたフィジカルアセスメントの開発に取り組んでき ました。最近では、エコー機器の小型化・高画質化が進んだことで、ベッドサイドで非侵襲、リアルタイムに体内を可視化することが容易になりました。その成果の一つとして、 エコーを用いた認知・運動機能が低下した高齢者に対する排便機能の実態調査を行い、便 秘症状のある入院患者のほとんどが直腸に便が貯留していることも明らかにしてきました。つまり「エコーによる直腸便貯留観察」が臨床に浸透することにより、多くの高齢者の便秘が適切に評価され、適切な治療・ケアにつながるといえます。
便秘エコーは、残尿量の計測と同様に、正しい教育を受ければ簡便に習得できる技術です。多くの専門職がこのベストプラクティスを手にとり実践することで、エコーによる可視化が便秘の診断やアセスメントのスタンダードとなり、療養者に還元できることを願ってやみません。
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[編集] 一般社団法人 日本創傷・オストミー・失禁管理学会
2021/7/27掲載
エコーによる直腸便貯留観察ベストプラクティス
880円(本体:800円+税)
9784796525398